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vol.7 溶け込む「茶色」

厳しい寒さの中、バレンタインデーの賑やかさが明るい話題を添える季節です。「チョコレート色」というと真っ先に連想するのがこの色。英語のBrownは熊(bear)が、日本語の茶色は文字通りお茶が語源だと言われています。「お茶は緑色じゃないの?」と思う人も多いでしょうが、実は緑茶の製法が確立されたのは近年のことで、庶民にとってお茶とは長らく番茶のことでした。室町時代にはお茶が染料として使われるようになり、その仕上がりから「茶色」という色名が生まれました。

この色が大流行したのが江戸時代。幕府が贅沢を禁止し、着物の色・柄・生地にまで制限を設けたため、庶民が着ることが出来たのは納戸色(藍色系)・ねずみ色・茶色だけでした。しかし、江戸っ子はこれを逆手に取り「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」と言われるほど豊富なカラーバリエーションを生み出し、微妙な色合いの差を楽しむことに粋を見出しました。この「四十八」や「百」は数が多いという意味で、実際にはそれぞれ100種類以上の色があったのだとか。

このように「質素・倹約」の象徴として推奨された歴史のある茶色は、土や木の色でもあり、安定した堅実なイメージを与えます。自然の中に溶け込み、目立たず景観を損なわないため、屋外広告に規制条例のある観光地でも重宝される色です。例えば自動販売機を濃い茶色にしたり、コーポレートカラーの赤を茶色に変えて看板を出す企業も。どっしりとした茶色は、床面など足元に広く使うと地に足が着くような落ち着く空間になります。

こんがり焼けたパンや、焼き目のついた肉や魚、収穫したての土のついた野菜を見ると美味しそうに感じますね。茶色には適度な焼き加減や成熟・熟成・豊穣のイメージもあり、同系色のオレンジや赤のような食欲増進効果も。こたつの上にみかんがあると、つい手が伸びてしまいますね…。暦の上では春ですが、寒さが一番厳しい2月。それでも雪の下からふきのとうが顔を出し、梅の枝には蕾がふくらみ始めます。早春の香りを楽しみながら、寒さ対策にもラストスパートを。

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